• 天丼

不動産詐欺の手口「交換詐欺」後編

前編からの続きです。 


 ●


 決済日以降濱田とはほぼ連絡が取れなくなった。

 事業の進捗を聞いても曖昧な返事をするだけだ。

 1500万がいつ帰ってくるのか、Y氏は宙に浮いたような日々を過ごす。

 どうしたものだろうかと考えているとある日見知らぬ番号から電話がかかる。


「始めまして、俺は武田っていう者なんですがYさんの電話番号でいいですか」

 ぶっきらぼうなしゃべり方だったが、ええまあと警戒しつつ返事をした。

「シード開発株式会社にお宅騙されたでしょ? 俺も騙されたんだよ」

「ええ、なぜそれをご存じで」

「俺も長野に土地を持っていてね。隣地の謄本上げたらあんたもシード開発株式会社に土地を引き渡してたのがわかってさ。恥ずかしはなしなんだが俺もあそこの土地を騙し取られちまったんだ」


 聞くと武田はほぼ自分と同様の手口で長野の土地を奪われ別の土地を押しつけられたらしい。Y氏との違いはY氏は追加で400万円払っていたが武田は逆に200万円貰っていた。

「お金貰っているんだからいいじゃないですか」

「いいわけないだろ。あそこの土地はシード開発株式会社が言ってた値段の倍以上で売れるんだ。交換したあと見つけたんだが俺の知ってる業者ならそれぐらいで買ってくれるらしい」

「え、そうなんですか」

「そうなんだよ。だからさっさと返して貰おうぜ。とりあえず一旦あって話そうか」



「へえ、ここで劇場型詐欺みたいになるんですね」

 鋭いですねえとX氏はうなずいた。

「Yさんは武田に実際に会ったんですか?」

「ええ、それで一緒に長野の土地を取り戻そうって話になるわけです。なんならその場に次の買い手も連れて来るわけです。『長野の土地Yさんの手元にもどったら2500万で買取ますよ』みたいな」

「で、その気にさせて武田と交渉に行くと……」

「そうです、あっさり返してくれるわけです」

「まあただの原野ですしね」


「ただ、シード開発株式会社は『お金はないので現金は返せません。那須の土地はそのまま差しあげます』と言ってきて、武田も『いいじゃねえか那須はリゾート地だ、価値あるし、俺の顔を立ててここは納めてくれ』って感じになるわけです」

 ははあ、よく考えられている。

「それであれですか、交渉後武田に『おれはこっち(反社)の人間でよ、今回の交渉はただで良いから2500万の買い手の紹介料だけはたのむぜ』とか言われてまた数百万取られて、買い手には連絡取れなくなるみたいな」

「そうですそうです。そこでY氏は全てが詐欺だったことに気づくんです」


 なんという詐欺スキームだろうか。

 結局Y氏の手元には利用価値のない原野が2物件残るだけだ。

 そしてシード開発株式会社に払った400万と武田に払った紹介料の数百万は手元から消える。

 実際に起きている動きは無価値な原野の交換と返却でしかないのに。


「まあ詐欺の鉄則ですね『騙される奴はまた騙される』原野買っている人は知識も無いくせに不動産でもうけたいという願望があるから騙し安いんでしょうね」

「うーん。恐ろしい。原野商法も現代になって進化してるんですね。この交換詐欺頑張ってブログで広められるように良い記事を書かせていただきます」

 と私は意気込んだのだが、X氏は「まだ続きがあるんです」と言った。


「まだあるんですか? この交換詐欺に」

「そうですY氏はこの後、自身の人格まで交換させられてしまうのです」

「じ、人格まで交換!!!!????」

 思わず大きな声を出してしまい、隣の席のワンルーム業者がぎょっとした目で私を見た。

「そうです。これにより詐欺師達は騙したと言う事実すらも消してしまうのです。Y氏はもはや警察に訴えることが出来ません。なぜなら今や彼は詐欺不動産業者の濱田ですからね。むしろ騙した側になった訳です。訴える側ではなくて訴えられる側です。」

「つまり騙した側と騙された側その立場すら交換してしまう、そういうわけですね」

「そうなります」

 なんて恐ろしい詐欺なんだ。

 騙した事実すらも相手に騙し渡してしまうとは。

 本当に恐ろしい。


その後


 インタビュー後X氏に飲みに誘われたのだが断った。

 自宅で作ったカレーがまっていたからだ。

 最近はスパイスに凝り市販のカレー粉は使わない。

 かなり美味しく出来たこともあり、その日はカレーの気分だった。


 私は家で1人、カレーを混ぜながらX氏から覚えた違和感を思い出していた。

 彼はなぜ身内であるY氏のことをあそこまで突き放して語れたのだろうか。「騙される奴は騙される」詐欺師の言葉を引用したように語っていたが、何というかあのときのX氏の口調にはY氏をバカにしたような表現が見えた。

 

 まさか、と僕は一つの答えに行き当たる。

 今日出会ったX氏はもしや、Y氏なのではないか? 正確に言うと、詐欺師の濱田に人格を交換されたあとの体はY氏、人格は濱田の状態だったのではないか?

 そうするとつじつまが合う。まるで自分で体験したかのような表現と、Y氏を見下すようなあの話し方。そもそもミーティングにルノ○ールを選ぶ時点で詐欺師か不動産業者しかあり得ないのだ。


 そして私に向けられた彼の蛇のような眼。

 もし、あの後彼に誘われるがままに飲みについていったとしたら、私の人格まで交換されていたのだろう。


 あまりにも恐ろしい思考に行き着き身震いする。

 カレーがなかったらあぶなかった……。


 鍋の中でふつふつと沸き立つなめらかな金色のそれをかき混ぜる。

 スープンでひとすくいして口に含む。鶏肉のうまみとスパイスの風味が口内を満たした。

 やはりカレーはクミン:チリ:ターメリック:コリアンダーを1:1:1:4でまぜ、鶏肉で出汁を取るに限る。


 読者の皆様も交換詐欺にはくれぐれも注意するように。



おしまい



 本記事に登場する団体名、人物名は実在のものとは関係ありません。


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​天丼

学生時代に株をスタート!その後兼業になって、今は独立して株を元手に不動産大家業みたいなことしてるよ。

株式相場歴5年

不動産歴4年

FX歴3年

27歳

​とてもつよい

​好きなどうぶつはねこ

email:magic.tendon@gmail.com

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