• 天丼

不動産詐欺の手口「交換詐欺」前編

 


 ある日、私のTwitterアカウントに以下のようなDMが届いた。

「始めまして、私はてんどんさんのブログの読者でございます。最近、私の身内が不動産の詐欺に引っかかりまして、良ければなのですが、てんどんさんのブログで取り上げていただく事は出来ませんでしょうか? 広くこの事実を知らせたいのです」


 ありがたい申し出であったが、最近私はポーカーにのめり込み、ブログの更新は行っておらずアクセス数もほぼない。

 現在のアクセス数は最盛期と比べ1/100程度であった。

 ただ詐欺には興味があったので「そんなにアクセスは今はないですが、、、私で良ければお話伺いますよ」とぼかしつつ引き受けた。


 私にDMをくれた方を便宜上X氏と呼ぶことにする。X氏のアカウントを見てみるとフォロー・フォロワーはほぼおらず、つぶやきもなかった。

 いわゆるROM専なのか、もしかしたらただのいたずらかもしれ無かったが、私が引き受ける旨を送ると直ぐに返信が来た。


「では、○月○日の14:00に大塚駅のルノ○ールでいかがでしょう?」

 その日は空いていたので――というかもはや毎日空いているのだが――いいですよ、と返信をした。



 当日、ルノ○ールにつくと、X氏が私を迎えた。

 X氏は50歳程度のスッキリとした顔立ちの男性だった。グレーのスーツにブレゲの腕時計をしており、私は初対面だと言うのに「もしかして不動産業界の方ですか?」と聞いてしまった。

 X氏は「いきなりですね」と軽く笑い、

「私はIT関係ですよ」

 と言った。

 不動産屋だと言われたことが若しかしたら失礼に当たったかと考え、「すみません、見る目がないんですよねいつも」と軽く自分を卑下した。


 美味しいわけでもないくせに高いコーヒーをいつも通り注文し、このルノ○ールのビジネスモデルって実はコーヒー売ってるんじゃなくて立退き保証金をせしめるのが本質なんですよ、と相手の興味を引きそうな話をして、それなりに打ち解けた後に、本題を切り出した。

「それで、詐欺ってどんな話なんですか?」

 切り出すと私の声が大きすぎたせいか、隣の席でワンルームの押し込みを行っているツーブロックが私をにらんだ。目を合わせないようにアイスコーヒーを飲む。


「そうですね。そろそろお話しましょうか」

 そう言ってX氏は私の眼を見ながら続けた。

「私の友人にYという男がいまして……」


交換詐欺



 Y氏の元へある日とある電話がかかってきた。

「Yさんのお電話でよろしかったでしょうか?」

 見覚えのない番号だったが、「そうです」と答える。

「私、不動産業者のシード開発不動産の濱田という者でして、Yさんが長野県にお持ちの不動産に関しまして御伺いしたく、ご連絡いたしました」

 長野県……? 記憶を探ると一つだけ思い当たる物件があった。

「あの原野ですか」

「そうです」


 Y氏は以前、バブル期に原野商法に引っかかり長野県の荒れ地を1000万という大金を出して購入していた。

 当時の売主である不動産業者はその土地をさして、「大手の不動産業者が開発を計画してますこれは2000万まで上がりますよ」と言ったが、その話は全くの嘘で、買ってしばらくしても開発の気配すらないので、連絡を取ったところ「この番号は現在つかわれておりません」と合成音声が不動産業者の失踪を告げるだけだった。


 それからと言うもの、騙されたというトラウマに触れたくなく、Y氏はその土地に何もせずに放置という選択をとり続けた。



「実はですね」

 濱田が続けた。

「あそこの土地がですね、太陽光関係の開発がきまっておりまして、もしよろしければ弊社で買取りをさせていただく事出来ますでしょうか?」

「え、あの土地をですか?」


 願ってもない話であった。毎年数千円程度だが要らぬ固定資産税、都市計画税を払い続けていたあのゴミを引き取ってもらえるのだ。

「ちなみにいくらくらいですか?」

 100万でもつけばいい話だ。

「弊社では1000万の御用意を考えております」


 1000万――Y氏は思わず息をのむ。

 買値と同じじゃないか……。

 損を帳消し出来る、そうY氏は思った。

「ええ、ぜひ。私にとって不必要な土地なので」

「ありがとうございます。では1度ミーティングをさせていただけますと幸いです」

 そうして濱田はY氏と日程を調整すると持参して欲しい品を伝え、その日の会話は終わる。



「へー買い取るってところから始まるんですね。懸賞金詐欺みたいですね」

 懸賞金詐欺詐欺とは、ある日突然「あなたに1000万があたりました!今すぐご連絡ください」とDMが届き、連絡すると入金のために手数料10万払えなど言われ、払ったところで1000万はもらえないという詐欺だ。


「ただこの詐欺はですね、そう言った手口じゃないんですよ。類似はしてるんですけどね」

 とX氏は言った。

「で、Yはその後何回かシード開発不動産の濱田と接触するんですが、そこでは常に買取させて欲しいという話が進むだけで詐欺の気配は欠片もありません。ただ契約近くになってこの詐欺の本質が現れます」



 先方の稟議も通り、一括での売却の日取りも決まり、その日を待つだけとなった頃のことだった。

 濱田よりY氏に連絡が入る。


「今御時間大丈夫でしょうか……」

 申し訳なさそうな濱田の声。Y氏は何かしらのトラブルが発生したと感じ、続けるように促した。

「実は会社で別の不動産の購入が決まってしまい、現金が用意出来そうもありません」

「では、契約は無しですか?」

「いいえ、それは避けたいことであります。弊社としましてはどうしてもYさんのお持ちの土地で事業をしたいので。そこで相談なのですが」

 と言って濱田は提案を続けた。


「まず、本件不動産を弊社に一旦譲渡していただきたく存じます。ただ無償とは言いません。一旦弊社の持っている不動産とほぼ同等の価値を持つ栃木県那須の不動産を『土地交換』という形で譲渡させていただきます。これにより、Yさんの資産を損なわずにすみます」

「なるほど」

「それで、事業が完結する三カ月後に弊社が交換させていただきました土地をYさんから購入させていただきます。その際は当然色もつけさせていただきます」

「ふむふむ。私が持っている長野の土地と御社がお持ちの栃木の土地を一旦交換、で御社は長野の土地を事業化して売却、でその売却した資金で私から栃木の土地を買い戻すと」


 なるほど、そうすれば私の目線で確かに担保もとれ、資金がなくとも私の土地を開発出来る。Y氏は優れたスキームだなと理解した。

「まあ、良いでしょう。色もつけてくれるとのことですし。100万くらいのせてくれると助かります。三ヶ月も待つわけですからね」

「勿論でございます。買い戻しの際は1000万ではなく1100万で購入させていただきます」



 と、言った濱田の言葉は数日後また変わる。

 決済日前日に濱田から連絡が来る。

「申し訳ありません……」

 Y氏は決済日前日に次は何だと軽くいらだつが、そもそも要らぬ土地に多額の価値がついた夢みたいな話だと思い返し声には表れないように務める。

「今回交換予定の土地ですが、弊社の栃木県那須の土地がYさんがお持ちの土地より遙かに価値が高いことが明らかになりました」

「なるほど」

 そこまで悪い話じゃなさそうだとY氏は考えた。


「大体金額に引き直して800万円ほどの差でして、このまま通常通り交換するとYさんに多額の贈与税がかかってしまう見通しです」

 それは困るとY氏が言いかけたが濱田が遮る。

「ただ弊社の顧問税理士に話したところ、この差額を税務的テクニックを用いれば400万には圧縮出来そうなんです。ただそれでも400万分の贈与税がかかってしまいます。そこで相談なのですが、400万円一旦弊社にお預けいただけませんか? もちろん事業完結した際にはお返し致します。つまり1100万で買い戻す物を1500万にするという形です」

 Y氏は考える。400万円手元から出てしまうのは痛いがたった三ヶ月の話だ。

 税務上のリスクを抱えるよりはずっといい。

 なによりそれにあの要らない長野の土地に価値がつくだけでもありがたい話だ。

 もう数十年も耐えていたんだ。三カ月くらいなんだ。こんなチャンスは二度と無いだろう。

「良いでしょう」

 そうしてY氏は自身の長野の土地に400万円をつけ、シード開発株式会社が持つ那須の土地との土地交換契約を結んだのであった。



「はーなるほど。それで決済後そのシード開発株式会社とは連絡が取れなくなるわけですね」

 そうです、とX氏はうなずいた。

「変な詐欺ですねえ。不動産版懸賞金詐欺、うーん交換詐欺とでも呼べばいいんですかね」

「いい表現ですね。まさに交換詐欺です」

 話し込んだせいか、気づくと互いのグラスが空になっていた。追加注文をしようかと考えたが、店員が素手では持てない程に熱くなった湯飲みを置いたので止めた。

「これでY氏の手元には那須の原野が残ってさらに、400万が消えたわけですね。普通二回は原野商法に引っかからないからこういう詐欺スキームでやるわけだ。賢いというか悪いこと考えますね詐欺師は。それに電話だけなら証拠も残らない。土地交換契約は合法的に行われているし警察は動きづらいでしょうね」

 X氏は私の話にうなずく。

「そう、ただこれには続きがあるんですよ」

 続き……? これ以上何があるのだろうか。


 後編に続く





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​天丼

学生時代に株をスタート!その後兼業になって、今は独立して株を元手に不動産大家業みたいなことしてるよ。

株式相場歴5年

不動産歴4年

FX歴3年

27歳

​とてもつよい

​好きなどうぶつはねこ

email:magic.tendon@gmail.com

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